オバフォー夫婦の高度不妊治療日記(夫版)

夫の側から見た、高度不妊治療および超高齢出産について記していきます。

医者選び(3)

そして残った品川のAクリニック。

ここのA先生の不妊治療本を読みこんだつまこにとっては、ここが一押しだった。

ところが、ここは説明会に参加するだけでもハードルが高い。

 

まず、ここはHPが充実していて、不妊治療の何たるか延々と説明してくれるスライドや動画がたくさん貼ってある。それらをひとしきり視聴したうえで、説明会の申し込みをしないといけないのであって。患者に対する上から目線を感じると言うか、うるさいクリニックだなあ、とは思うのだけれど、まあこちらも本気なのでそこまではクリアできる。

で、その説明会だ。月に1回A先生が名古屋から来て行う説明会は品川で平日の18時からスタート。まずはKAWAは参加できないし、つまこ独りでいくとしても仕事の関係上時間を合わせるのが難しい。これはなかなか行けそうにないな、行けるタイミングがあれば考えてもいいけど、などと思っていたのだけれど。

 

ところが、その「タイミング」というのは面白いもので。

ロンドンから帰ってきていきなり激務に巻き込まれ、休日出勤もさせられていたKAWAは、仕事の繁閑を縫って突然代休を取ることになった。

折角だから平日にしかできないことをやろう、と銀行回りをし、番号札を渡されて受付を待ちながら、あれ、Aクリニックの説明会って今日じゃなかったっけ、と気づく。

まあKクリニックの件もあるし、今日の今日で説明会を申し込んでも無駄だよな、と思いつつ、一応電話をかけてみると電話応対の女性が

「いえ、席が空いてますのでお受けできますよ」と言う。

「では参加したいのですが、妻が仕事がありますので行けるかわからないんですよね。私一人でもいいですか?」

「いえ、申し訳ありませんが男性おひとり、というのは基本的に受け付けていないんですよ」

急に思い立ったものだからつまこが行けるかどうかわからない。それでもとりあえずつまこに連絡することにして、説明会の予約を取ってもらうことにした。

「妻の仕事の具合がわからないんで、もし妻がいけなかったらキャンセルします」とKAWAは何回か強調した。電話の向こう側が「奥様お忙しいんですねえ」と同情した声となり、あ、これではKAWAがつまこのヒモだと勘違いされたかな、といらぬ心配をしたりして。

 

結局つまこに連絡が取れ、無理やり説明会に行くことにしたものの、やはりつまこは少し遅れてしまうということになった。遅刻は厳禁、と言われていたのだが、こうなったら強引に入ってしまえ、と「妻が後から来ますので」と力説し、説明会会場に入れてもらう。その後も数分つまこが来なかったのだが、その間ひっきりなしに受け付けの女の子がKAWAのところにやってきて「奥様、本当にいらっしゃるんですよね?」と尋ねられたのが印象的だった。

で、その説明会に有名人のA先生登場した。

本に載っている柔和な表情とは打って変わって厳しい顔。そして、最初からビシリとかましてくれたのであった。

「まず、クレーマーは出て行ってください」

不妊治療は成功が保障された治療ではない。だから、うまくいかなくなった時にクレームをつけるような人は、自分として相手をしたくない。だか自分がそういう人間だという自覚のある人は、この場から出て行ってもらいたい。

始めの受け付けの電話で若干いざこざを起こしてしまったKAWAは、この最初のかましだけでちょっとビクビクしてしまった。

そして、A先生の独演が始まった。一通りの治療方法について話すのはもちろんのこと、またこのクリニックに来る人の多くが他のクリニックからの店員者であることを踏まえ、Aクリニックと他との違いについても明確にしてくる。

更には、不妊治療についての患者の構えにも話が及んだ。

「この世界では男女の違いというのは明確にある。治療で大変なのは女性の方。これは生物としての摂理なのだから仕方がない」

「でも患者に努力できることは基本的にない。妊娠しやすいように、と何かやろうとはせず、医師の言うことに従いなさい」

「うちのクリニックは成功報酬制を取る気はない。そんなプライドの無い仕事はできない」

「巷の『不妊に効く××』というものを頼りにするな。不妊と銘打つと売れるので怪しげな商売をしているひともたくさんいる」

…覚えているのでざっとこんな感じ。ここまで一刀両断にバシバシ切られると、かえって楽しくなってきてしまう。そうそう、大学にもいたなあ、こんな教授。人としてはどうかと思ったけど、授業は面白かった。

 

それから休憩時間となり、その間にA先生への質問表が配られる。A先生はそれに対してひとつひとつ見ながら例の感じでバッサバッサと切って行くのだが、その姿を見てKAWAはこの人凄い人だな、と改めて思った。これだけ偉そうに、攻撃的に、話を進めて行けるのは、それだけ自分に対して厳しく、かつ患者一人一人に向き合った治療をしているからだ、という事に気づく。こういう人、KAWAは嫌いではない。

つまこの書いた質問も読み上げられた。

「前のクリニックでは卵胞をいくらとっても卵子が取れなかったのですが、そんな状態でもこちらでは不妊治療が受けられますか?」

それに対するA先生の答え。

「卵胞が取れるのにそこから卵子が全く取れないなんてありえない。申し訳ないがそちらの腕が悪すぎるのであって、うちではそんなことにはならない」

それを聞いたつまこは、嬉しそうに微笑んだ。

 

「あの先生に怒られないか、ちょっと不安」説明会からの帰り道、つまこはそう言いつつも、こちらのクリニックで受けてみようと言う思いになっていた。KAWAもそれは同感である。

実は、お金の問題は少し気になった。ここのAクリニックは他に比べて治療費がお高めであるという事も有名なのである。

けれど、それはこの際目をつぶろう。お金の使い道は人それぞれ。ケチケチで鳴らすKAWA夫妻だけど、このようなところにお金を流す、というのでもいいではないか。

かくして、我らが不妊治療を託すクリニックはAクリニックに決定したのである。