KAWA、治療開始
そして、つまこが初診を受けた3日後の6月1日土曜日。
KAWAは初めてAクリニックの門を叩くことになった。
品川駅の改札口を出て左の方に向かい、港南口を抜ける。高輪口はともかく、品川の港南口と言えば、元々はコキタナイ雑居ビルとかしかなくて、さらに先にある屠殺場の方からえもいわれぬにおいがたれこめる街だったのが、最近では随分と変わったものだ。
そこにある洗練された高層ビルに入り、守衛さんから入口のパスを貰う。もともとここはビジネスビルで、土曜日に入館しようという人はクリニックの患者ぐらいしかいないので。
初めて入ったクリニックは開放感のある明るい作りになっていて、ゆったりとリラックスできる感じのところだった。まずは自動受付機にカードを通して受付を打刻した後、今度は人のいる受付に行ってカードを渡し手続きをしてもらう。
余談ながら、その作業はそれから何回も見ることになるのだが、どうして機械だけで受付が済まないのか、KAWAは不思議だった。機械で受け付けてから人間が受け付け、なんてなんか無駄な作業に思えてならないのだけれど。
そして受付の奥にある待合室が広い。何十人詰められるのだろう、という待合室に、患者さんはちらほら、といった程度。「品川は開いたばかりですからまだ患者さんも多くなくて狙い目ですよ」とA先生が言っていたのもうなずける。これからの千客万来を期して、大きく施設を作りこんだのであろう。
更にはエレベータホールからみて反対側には子供連れの待合室もあった。いわゆる二人目不妊の治療を受ける人のためのスペースなのだが、そのような配慮も心地よい。二人目が欲しい患者さんの気持ちもわかるけど、子供が出来なくて悩んでいる人たちの中で赤ん坊や用事がギャン泣きしていたら、それは不必要にイライラさせられることはこのうえない。
このクリニックの呼び出しはメールで送られることになっていて、自分の番が来るとメールが届き、その指示された診療室に入ることになる。
前のクリニックでの経験上、大した検査はなかったとしてもどうせ相当待たされるのだろう、と持ち込んでいたニンテンドーDSで三国志を始めたKAWAであったが、あにはからんやメールがすぐにやってきて採血室に呼ばれていったわけで。
初診、といっても男性側に対しては特にガイダンスなどがあるわけではない。看護婦さんが狭い部屋にいて、血液を1本抜いて、はい終了、となった。それでこの日は14000円取られる。なんだかなあ、という感じである。
けれども、この注射器1本分の血液で、多くの種類の検査を済ませることになるのだ。これはつまこの側も同じなのだけれど、不妊治療を受けるに際して、他でこれまでに受けた検査の内容を提出させられており、余計な重複にならないようにとの配慮をしてもらえていた。風疹についても、KAWAはまだ受けていなかったが、北区から無料検査のお知らせが来ていたからパス。だけど、それでもこの日の検査内容は多かったわけで。
その後で貰った結果をここに書き出しておこう。
HBs抗原:陰性
HCV判定:陰性
梅毒TP抗体:陰性
HIV抗原・抗体:陰性
まあ、一つでも陽性、と出ていたらおい待てよ何時の間に、となる内容ではあったけれども、とりあえずクリア。
そして、その日には行われなかった、男性側の一番大事な検査が、精液検査だ。これは、容器を渡されて、その3日後のつまこの診察の日の朝に家で採取し、つまこに持って行ってもらうことになった。
採取の仕方については、割愛。それを所定の紙袋に入れてつまこが持っていく。
結果はその日のうちにつまこに知らされたのだけれど、彼女はKAWAに「年相応のデータ。それほど悪くなかったよ」とラインを送ってきたてくれた。けれども、それは彼女の優しさであって、自分の精子の出来の悪さをKAWAが気にしていることを知っているからそういう表現になったわけで、あえて言えば結果は惨憺たるものだった。
恥ずかしいけれども、あえてここにデータをさらす。
精液量:2.70ml (基準:2.0-4.0ml) - 思ったよりよかったじゃない。
精子濃度:2.42×10の6乗/ml (基準:40×10の6乗/ml)⇒ おいおい、基準の8分の1かよ・・・
精子総数:6.534×10の6乗/ml (基準:39×10の6乗/ml) ⇒ こちらも基準の6分の1。精液の量に対してスカスカということね。
運動率:34.1%(基準:60%) - ヒヨワだ、ヒヨワすぎる・・・
少なくかつヒヨワ、となれば、これではつまこが妊娠するはずもない。しかも基準について、説明書きにはご丁寧に、「甘い基準のものもあって正常値として使用していけません」なんて書いてあるのもあって、それすらクリアしていないのは男としてどうなのか、とも思ってしまうほどの水準なのである。
もう、「(甲斐性もなければ見込みもないけど)浮気しても相手を孕ます心配がないぜっ」とでも開き直りたい気分。