移植準備(2)苦悩のエストロゲンパッチ
かくして始まった融解胚移植準備期間。
ここからはつまこの薬が飲み薬ではなく貼り薬に変わった。「エストロゲンパッチ(商品名:エストラナテープ)」というもので、経皮吸収卵胞ホルモン製剤、とある。診察が終わると、KAWA夫婦は別室に呼ばれ、その薬の張り方についてレクチャーを受けることになった。
この薬は、不足するエストロゲンと言う卵胞ホルモンを皮膚から吸収するためのもので、更年期障害などのホルモン補充療法でも使われるシロモノだそう。半径2センチ程度の丸いパッチで、これを「胸以外の」体に張ってください、との説明があった。これをまずは体に2つほど。それを2日ごとに取り換えていくのだが、排卵期を迎えるにあたって増えていき、最高で8枚張ることになる。
なお、パッチの取り換えは夜にして、お風呂の前後で張り替えたらいいのでは、と思っていたら、「風呂も張ったまま入ってください、貼ってない時間が無いように」とかなり厳しい。また、貼る場所は毎回違うところにしてほしいと。
ちなみに、胸に貼ってはいけない理由を聞いてみると、説明者はおどろおどろしい表情をわざと作ったうえで、
「このテープを胸に張りますとね、乳がんを誘発する恐れがあるのですよ」とのたまう。
それなら下腹部に貼ったら子宮がんにならないの、と聞いたらそれは大丈夫なのだそうな。
そんな説明を聞いた帰り道につまこいわく、「注射がなくなっただけでも良かった。それだけでも全然違うよ」
ところが、それは甘い考えだった。
エストロゲンパッチをまず貼ったのは下腹部あたり。それをつけてみるとわかったのだが、とにかくやたらとかゆくなるらしい。
それを「たぶんあまりかゆくならなそうなところ」を選んで張り替えるのはKAWAの仕事になった。時には背中。時には足首。1回1回貼る場所を変えてみるのだけれど、つまこが「ここはかゆくなかった」と言い出すことは皆無で。汗が出るところは当然かゆいだろうし、お尻は汗をかかないだろうと思うものの、椅子に座っていると肌がしつけられるのであまりいいところとは思えない。それで一度は向う脛前方の、骨が固いところにペタッと貼ってみたのだが、貼った後に考えてみるとそれはそれですね毛が生えるとかゆかろう。また、内またとかわきの下といった、擦れやすい部分は最悪という事で、そういう所につけるとその後2日間はかゆみ地獄に耐える生活となる。
絆創膏貼っただけでもかゆくなるものだから、ホルモン剤を体に吸収させるためのパッチならなおさらだろう、とKAWAは思う。
例えば、このパッチは剥がした後にしばらく跡が残るのだ。まるでお灸をすえたような感じになっていて、それだけ皮膚に食い込んでいるのだからかゆくないはずもない。そして、テープの貼った後は2日後はおろか、1週間ぐらいは赤く炎症を起こしているし、それだけ皮膚に炎症を起こさせる薬だということだ。かゆみ止めとして保湿クリームを貰ってきてはいたが、あまり効果があるようには思われなかった。「同じ場所に続けて貼らないでください」というのもよくわかる。そんなことをやっていたら皮膚がボロボロになってしまうだろう。
後から振り返ってみると、つまこにしてみれば注射よりもつらい時期であったという。だから、お風呂に入るときは張り替えることを拒否し、まずは剥がしてゴシゴシした後、風呂上りに新しいのを貼る。「うっかり」はがれてしまった時には、まあいいやとそのままにしておいて、2日後にKAWAが発見することに。
まあ、絆創膏でさえ、同じところに貼り続けていたらかゆくなるものだ。ましてやホルモンの吸入剤である。それは理解できるし、同情の限りではあるのだけれど、
「これで失敗したらどうしてくれんねん。いくらかかっとるか知っとーか!?」とかいいたくもなり、とはいえそんなことを言ったらつまこが「じゃあ妊活やめる」とか言い出しかねないので、ぐっと我慢したのだけれど。
とにかく、一番かゆくなさそうなところはどこか。
2日おきにエストラーナテープを貼る係のKAWAとしては毎回が思案のしどころであったのである。