オバフォー夫婦の高度不妊治療日記(夫版)

夫の側から見た、高度不妊治療および超高齢出産について記していきます。

夫が不妊治療を決断するまで

 話はいったん、ここで少しさかのぼる。

 

子供なんて、ふつうにやってれば出来る。

ご多分に漏れずそう思っていたKAWA夫婦のもとに、なかなかやってきてくれなかったコウノトリさん。

KAWAがまず思ったのは、つまこが不妊症なのではないかという事だった。

そこで、「私のからだに問題などあろうはずはない!」と言い張るつまこをなだめすかし、近所の産婦人科で軽く見てもらうことにする。結果は、まあ正常でしょうね、というもので、つまこは「ほら、私に問題ないじゃない。アンタよアンタ」と鼻を膨らませながら帰ってきた。

 

そうなると、次はKAWAの番である。

男性不妊のチェックとなると近所の産婦人科では出来ないので、板橋にある病院を紹介してもらっていってみた。

まずは5日間の禁欲。そして病院のトイレで精液を採取し、検査に出して。

それを専門業者に分析をしてもらった後、再び訪れたその病院でKAWAは診察室に呼び出された。

「あなた、本当に5日間禁欲しました?」

診察室に入るなり、男性医師(30代前半ぐらいだろうか。当時のKAWAより少し若い感じの人だった)は怪訝そうな目をしながらKAWAに問いただしてくる。

「はい。一応」

「これ見て」ぶっきらぼうに医師は言って検査結果を見せてくれた。精子の量、運動率、奇形率、全部劣悪な結果。

「これでは普通にやってたら子供は出来ませんね。不妊治療とか考えた方がいいです。以上」

 

ショックだった。

普段なんともない生活をしている自分なのに、性欲も若いころに比べてそれほど陰りがあるとは思っていないのだけれど、それでもいつの間にか歳を取って、男性機能がポンコツになっていたとは。

それ以上にショックだったのは、男性医師のKAWAを見る目だった。あの、あんたみたいな人にはあきれ果てた、と言わんばかりの、蔑視的な、あの眼。

歯を磨かないで歯医者に行ったら、歯科医に怒られる。

ケガをしているのに運動したら、外科医に怒られる。

糖尿病なのに不摂生してたら、内科医に怒られる。

けれど、咎無くして男性不妊が判明した患者に対して、どうしてあの医者はあんな態度を取れたのか。

振り返ってみれば、それもいい経験だったな、とKAWAは思う。愛想のない性格の医師だったのかもしれないし、激混みの毎日で疲労困憊でもあったのだろう。けれど、あれは分析結果に傷ついた患者に対する態度ではない。それだけで医師失格だったな、あの男、とKAWAは今でも怒っている。

 

そして、そういうことなんだな、と理解するところもあった。

よく「不妊治療に旦那が協力してくれない」なんて話をよく聞く。KAWAも別に大したことはやっていないのに「お宅は旦那さんが非常に協力的ですね~」とクリニックで褒められることも多数である。そんな風に、多くの夫が不妊治療にネガティブな理由、それは「自分の体が不良品であることを認めたくない」というもの、もしくは「自分のせいで不妊と知れたら世間にバカにされる」というものなのではないか。

また、女性の場合は年齢とともに妊娠率が下がってくることがよく知られているが、男性の場合は違うという誤解もある。「金持ちの爺さんが若いメカケを妊娠させた」なんて話も良く聞くことだし、いくつになっても男性は性欲を持ち続ける限り子供を作ることができるのではないかと。だから、タイムリミットを意識する女性に対して、まだまだ大丈夫じゃない、とのんびり構えていられるのだ。

しかしKAWAの例を取ってみても、加齢による衰えがあるのは明らかで(精液採取したとき、実は改めて「あれ、思ったより少ないな」と自分でも感じていた)、男性もやはり歳を取ると「妊娠させる力」は衰退していく。そこは、意識した方がいい。仮に今の奥さんと離婚して若い娘を嫁にもらい直したとしても、子供が出来る可能性はさほどには上がらないのだ。

話はそれるが、上に挙げたような、古今東西で伝わる「爺さんが権力や財力に物を言わせて若い娘を孕ませた」話だけど、あれって実は娘側も画策していて、歳を取った後捨てられないように、若い男を招き入れて子作りし、子供の母親になることで自分の居場所を維持する、なんてケースも結構あったのではないか。そうであれば、男も女もしたたかなものだと思うものだけれど。

 

話を元に戻して、自分に不妊の理由があることを知った時、男性はどう思うのか。

KAWAの場合は、ショックだった一方でどこかしらホッとしたところがあった。

世間一般的に、不妊の原因は女性にあると思われている。だから子供が出来ずに過ごしていると、つまこに冷たい目が向けられることもあるだろう。そして、つまこだけに問題があった場合、KAWAが子供好きだと知っているだけに肩身は一層狭くなる。

ところが、それがKAWAに問題があるとわかったのである。「私のせいじゃない」(実はつまこの卵子も相応に歳を取っているのでこちらにも問題があることは判明したのだが)と窮屈な思いはしなくて済むし、親戚に対してもいわれのない罪悪感を抱く必要もないだろう。

 

不妊の原因は女性にある、と言うのは間違いで、Aクリニックによると不妊の原因の41%が女性、24%が男性、24%が男女とも問題なのだそうだ。

残り11%が「原因不明」というのが個人的には面白いところで、まだまだこの分野は神のみぞ知る世界なのだ。

それでいて、不妊治療で主に負担がかかるのは女性側。これは仕方がないところで、男性としては申し訳なく思うところ大である。そんな中、男性が「協力的でない」(そもそも協同して取り組むべき問題であって、「協力」という言葉にも違和感を感じる)というのがKAWAにはわからない。

それだけ、子供の欲しがり具合が男と女の間で違うのかもしれないが、不妊治療はその後出産、育児へとつながる。「子供が欲しい」という思いが夫婦の片方にしかないのであれば不妊治療に進むべきではないし、もし双方の思いが一致しているなら、お互いが積極的に取り組むようになるはず。

…それ程簡単に割り切れる問題ではないのかもしれないが。

 

そして最後の難関がカネの問題。

不妊治療のプロセスについては後述するが、KAWAがやらなければならない高度不妊治療となると非常に金がかかるのだ。

知っている人でも「外車買えたくらい」という人もあるし、1000万かかったと言う人の話も聞く。大金をはたいてもうまくいくかどうかは確約がなく、ケチなKAWA夫婦がそんな金をポンと出すことが出来るのか。

そこは、結局割り切ることにした。お金の遣い方は人それぞれ。良い物に囲まれて豊かな生活を送る人もいれば美食に走る人もいる。KAWA夫妻は子供を手に入れるために資金を投下するのだ。それは決して無駄なお金ではなくて。

そんな風にして始めた不妊治療。それから紆余曲折を経て今日に至るわけで。