オバフォー夫婦の高度不妊治療日記(夫版)

夫の側から見た、高度不妊治療および超高齢出産について記していきます。

採卵への道のり(2)

では、採卵に向けて、具体的にはどのような治療を行うのか。

これはクリニックによりいろんな方針があるし、また患者によって違う方法を取るようなので、あくまで我が家のケースという事で。

 

つまこが受けたのは「クロミフェン法」というものだそうな。

まず処方されたのはクロミッドという錠剤で、この薬は先に述べたホルモンのうちE2の分泌を抑制する作用がある。

E2が多くならない限り、FSHの分泌が抑えられない。そうするとFSHは絶えず卵胞に働きかけ、卵子の熟成を促す。

この時点では、ただ飲み薬を飲んでるだけだし、体に変調もない。だから、不妊治療など屁でもないのだが(失礼)。

そして、そこからやってくるのが、恐怖の自己注射タイムなのである。

 

注射は初診から10日後に始まった。つまこは「セトロタイド」「HMGフジ」という薬の詰まった注射をもらってきていて、それを冷蔵庫で保管していたのだが、それを2日おきに刺さないといけない。

セトロタイドはアンタゴニストといわれる薬で、平たく言うとクロミッドで抑制しきれなくなったE2が零れ落ち、それがたまってきて脳がLH分泌を指示しようとしたときに、その連絡経路に干渉してLH分泌指示を止めようと言う、力技をかける薬なのである。そしてHMGフジはFSHが入っていて、さらにFSH値を引き上げる意味合いを持つ。

つまりはセトロタイドがLHを抑えている間にFSHを外からガンガンに打ち込んで、卵子を沢山熟成させようと言う算段なのである。

採卵の2日前には注射の中身が変わり、セトロタイドとHMGフジに代わってHCGという薬になる。これはいよいよ、排卵を誘発しようというものだ。

こんな作用をもたらす重要な薬だからこそ、この注射は必要不可欠。そしてそれを外注で看護婦に打ってもらうとその分無駄なお金もかかるし難しい技術を要するものではないから、ということで自己注射にする気持ちもわかる。

けれども、つまこが不妊治療を嫌がった理由の半分くらいはこの自己注射によるものだったのである。

「だって考えてごらんなさいよ」この話になるとつまこはいつもキレ気味にKAWAに訴える。「自分の体に針を刺すんだよ。ぶすって。怖くないはずがないじゃない」

そこが障壁になる気持ちもわかる。実は献血マニアのKAWAなのであるが、自分の腕に針を刺される瞬間だけはいまだに目視することが出来ないでいるのである。それがさらに自分で打つことになるのだとは。

治療を始めるまでは、つまこは「せめてあんたが打ってくれ」とKAWAに言っていた。けれども、その時が来ると冷静に自らの夫の技量(ぶきっちょさ)に思い至ったらしく、自ら針を刺すしかないと腹をくくったらしい。

なお、それでも今回の治療の方が前よりましだった、とつまこは後で語った。前の治療では、背中に注射を刺さないといけなかった。手元が見えるか見えないかで恐怖も全然変わってくる、と。

恥ずかしながら、そんなことすら知らなかったKAWA。つまこが注射をすること自体が怖くて、その場に立ち会うことはなかったからだ。

 

でも、つまこが「隣にいてくれた方が助かる」というので、今回は逃げずにその場に立ち会うことにした。

注射の時間、つまこは覚悟を決めると注射器キットを持って椅子に座り、おへその下あたりの肉を軽くつまむ。深呼吸の後、ゆっくりと針を自分のお腹に垂直に突き立てる。そしてゆっくりと注射の中身を自分の体内に注入した後、針を一気に引き抜く。大きなため息が出た後、アルコール消毒をしてパッチで止め、無事終了。

こんなことを、採卵予定日の9日前、6日前、4日前、3日前、2日前、と計5回も行うのだ。

苦痛にゆがむつまこの顔を見、思わず背中をさすろうとするのだけれど、「危ないからやめて!」と言われ、すごすご引き下がるKAWA。何もできず変わってやることもできないじぶんの無力さにさいなまされ、終わった後は自然とつまこをぎゅうっと抱きしめてしまう。そんなことしかできないのだけれど。

このあたりのことを思い出すたびに、その時のつまこへの申し訳ない気持ちがぶりかえす。

いつか生まれる我が子よ。あなたが生まれるのは、お母さんがこの時を耐え、がんばったからに他ならない、とあなたには伝えなければならない。